徳大式防具の衝撃吸収原理



拳負傷原因の予備知識

徳大式防具の衝撃吸収原理を理解するには、近年多発する拳負傷原因について知る必要がある。
手甲部の剥離骨折の多くは防具面をグローブを装着した拳で打撃した場合。
分かり易くする為に日本拳法防具面を分解し面金だけにした。
グローブは外形的に大差が無いので徳大式拳法グローブを標準のままで使用し撮影した。
徳島大学渭水拳友会の調査では昭和42年から平成の初めまでは拳負傷がほとんど無かった。
大学運動部としての拳法練習で防具不備を原因とする負傷は起こってはならず、早急な改善を必要とした。
最も簡単な対処方法は防具練習の中止になる。
次に考えられる対策は事故原因を探求しその改善を行う事である。
先ず改善を要する防具として面とグローブがある。
主要な拳法防具メーカー数社のグローブについて検討した。
生手で装着して負傷して当然と思えるクッション材の柔らかさであった。
当然だが初心者はどの程度(柔らかさ・打撃強度)で負傷するか学習していない。
防具面は昔ながらの木綿綿を面布団材料にしている。
最新の低反発衝撃吸収材を採用するべきと判断した。
平成17年4月から検討を開始し基本的な構造は約2ヶ月で完了した。
量産用試作等でさらに2ヶ月を要したが夏休みになり9月から改良防具を安全な練習用として徳大では実用する。

拳負傷多発は10数年以前に始まった。
アメリカ国防省のペンタゴンは設計から建設着手まで僅か2ヶ月と聞いている。
この無用な10数年は何だったのか考える必要がある。

 注)本頁掲載内容は全て私見である事をご理解ください

  


日本拳法防具の構造

  • 右写真は早川繊維工業(株)製の日本拳法
    防具面金 8mm Lサイズを正面撮影
  • 正面横棒間隔は約5cmで広く視認性は高い
  • 右写真は早川繊維工業(株)製の日本拳法
    防具面金 8mm Lサイズを側面撮影
  • 面金は鉄棒で構成している。
  • 縦棒は7mm、横棒は8mmになっている。

 徳大式改良グローブ装着時に撮影
  • グローブ装着時の右拳
  • 厚さは約12cm前後
  • グローブ装着時の右拳
  • 改良幅は約11cm前後だが市販グローブの表面幅は少し狭い。
  • 市販グローブでは表層下の硬質スポンジ幅は手甲幅より狭い約8cmしか無い。
  • グローブを装着し右伏せ拳で面金を打つ
  • グローブは大きい様でも3本の面金棒と間隔と大差がない。
  • 素手の右伏せ拳で面金を打つ
  • 柔らかく薄いグローブなら、しっかり握った拳を持つ者でも圧迫骨折か腫れ上がる。
    骨の弱い者は手甲を骨折する。
  • 拳の厚みは7cm(写真の拳は標準より大)
  • 拳の幅は約9cm
  • 筆者も右拳が潰れた経験を持つが!!
  • 小指を中心として打撃した最悪ケース
  • 柔らかく薄いグローブなら鋼の拳を持つ者以外は負傷する可能性が高い。
  • 人差し指と中指の拳で打つ縦拳
  • 熟練者は打撃時に拳を極めるので小指側が当たり難い。

   


日本拳法防具の形状考察

防具面の良い点 金属棒で構成する日本拳法面は合成樹脂製面に比べて、打撃された場合に破損する可能性が極めて低い。(溶接不備は除外)
金属棒の間隔が広く(5cm)視認性が高い。
正面・側面からの打撃力は頭部全体に分散され易い。
特に正面からの打撃は面布団のずれにより緩和され易い。
防具面の悪い点 面布団材質は木綿綿を使用し衝撃吸収特性が低い。
木綿綿は圧縮時に堅くなり反発力が大きい。
面金が重たく打撃受時は慣性により頸部負担が大きい。
防具面を装着した頭部は本来の1.5倍以上の重量になり敏捷性欠如。
金属棒の間隔が広く(5cm)グローブで打撃した場合に局部加重になり易い。特に正面の縦棒の無い部分の左右とその下部。
グローブの問題点 表面側に硬質発泡樹脂板を使用し反発力が大きい。
クッション材としてテトロン綿と硬質発泡ポリエチレンを使用し衝撃吸収特性は劣悪で高反発特性。
経年変化に因り新品購入時に比べて柔らかくなる。
近年、連続気泡或いは反連続気泡型の低反発発泡スポンジが市販されている。
低反発クッション材は簡単に入手可能なのに防具に採用しない理由を、残念ながら知る立場にない。
打撃時のクッション層有効厚みが薄すぎる。
市販グローブは金属棒で出来た防具面を打撃する特異な用途に適していない、ボクシング用に似た構造を何時までも採用している。
安全に打撃するには厳重なバンテージと拳サポを必要とする現状のグローブに疑問を持たない不可思議な状況。

  


徳島大学渭水拳友会の衝撃吸収対策

防具面の改良 練習用としての安全性を最重要視して改良に取り組んだ。
試合時間よりも練習時間が遙かに大きいので、事故確立は試合時よりも練習時に高くなる。
大学運動部としての安全を最優先する徳島大学渭水拳友会の指導理念は勝敗を優先しない(渭水拳友会会長)。
打撃衝撃を緩和する為に低反発クッション材を面布団に採用する。
頸部保護対策として軽い7mm面を採用した。
筆者は昭和50年から現在まで7mm面のみ使用しているが打撃による金属棒の変形は経験していない。(床面衝突による変形は除く)
防具面が重いほど衝撃を緩和するとの考えを聞くが頸部負担増加と相反する。
衝撃衝撃緩和は面金に必要充分な剛性があるならばクッション材で対処するのが正しい。
衝撃緩和を効率的に行う様に制震・免震方式を採用した防具面構造(PAT.P)を採用。
後頭部保護を確実にする厚いクッション材入り面垂れを採用。
顔の形状に緊密に適合させる専用充填用材を2種二組採用。
初心者には特に時間を要する一般的なタオルを使用した適合化は取りやめた。
簡単に防具面を固定するマジックテープ固定方式を採用。
グローブの改良 金属面を使用する日本拳法の練習方法に対応した専用グローブが必要。
拳を痛めない為には、面金の金属棒間隔とグローブの厚みが大きく関係する。
熟練者はグローブ表層下にに薄いゴム板等を封入し拳を痛めない工夫をしている場合がある。
これはグローブ表面を固くして面金の金属棒間隔の広さに対応したが、結果として打撃された者には衝撃を増加する。
グローブ表面の反発係数を大きくする対応方法であり、安全上本来は禁止すべきである。
グローブ表面を柔らかくして厚みを増すのが良い。
テトロン綿の代わりにナイロン繊維を封入している場合もあるが圧縮時の反発係数は大きく自身の手首の負担を大きくする。
この適正な厚みと材質について検討した結果を改良グローブに採用し(PAT.P)安全性を高めた。
打撃する側と打撃される側が共に衝撃を緩和出来るように最新の低反発クッション材を選択しグローブ用に特所加工した。
グローブの紐に追加するマジックテープアタッチメントを開発して自分自身で防具着装を可能にした。
衝撃吸収効果 低反発クッション材をグローブと防具面に採用した結果、防具練習中の打撃音が明らかに異なった。
堅い音から鈍い音に変化し頭の芯に響く衝撃が激減した。
資金不足で科学的なデーターを取れないが、体感的に明確な差が出る場合は数値データーにすると相当な差があるのは間違いない。
(筆者は研究実験装置開発を長年行としている)
脳震盪によるダウンも少なくなり勝負スタイルが変化する。
強い打撃で相手を痛めつけるのでなくスピードとポイント重視の拳法スタイルに進化すると予想している。
安全な防具が何故重要かは粗悪なグローブで明らかになる。
外観的に拳負傷は判るし時間が経てば完全に治癒する場合が多い。
頭部傷害は徐々に進行するので症状は分かり難い。
沢山殴られた防具練習後は頭に何か違和感があるのを経験している。
この違和感を軽減するのが衝撃吸収対策だか。
試用について 改良防具は有償サンプルとして低価格にて提供する。

拳法を止めるか、安全な防具を採用するかの二者択一。
徳島大学渭水拳友会は安全な防具を自ら開発する道を選択した。